思い  その14

梯久美子著『この父ありて 娘たちの歳月』は同性として印象深い九人の中のお一人、萩原葉子さんの『蕁麻(いらくさ)の家』(講談社文芸文庫)を読んでみました。

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あれまで深くご自分を詳細にお書きになったことへの勇気と、真実から生まれた人の心を動かすエネルギーに圧倒されました。一人一人の人間が一人の人間として成熟していくための要件をここでも突き付けられました。生活苦を超えて、ご自分を開示なさって確かめられその上に築かれた表現力、ただただ敬意を感じるのみです。自分の生い立ちを厳しく確認する辛さを想像しております。

でも、自分がする確認の仕方は自己弁護だらけで自分に対して甘いものになっております。自分を冷静に確かめる行為は限りなく困難になっています。老いと共にです。怠惰を諌められると共に心を揺さぶられ、読後の冷静さを取り戻すのに時間がかかりそうです。

そして誰しもが肉親から引き受けるものの多さに今更驚いています。自分は若い頃親族に父親に似ているところがあると言われたことがありました。父は50代にクモ膜下出血を患い気力が大分低下したまま83歳で亡くなりました。今、私はその年を超えました。元気な時の彼の尊敬すべき面、男としての弱い鈍感で人を余り疑わないとこなど思い出します。ことにかれの人間としての弱みを嫌っている自分がおります。

また、母に対しては同性でもあるので解っていると思っておりました。でも終末期10年程一緒に暮らしたのでその常識では謀り知れないところがあるのが身に沁みました。自分がその一番の末裔であることを咀嚼しています。

両親から本質的に引き継いでいる物、状況からの逃れられ得なかった、マイナス、またはプラスを今この自分に感じています。